三叉神経痛の特徴は、電撃痛と呼ばれる突然の激しい顔の痛みです。電撃痛とは、電流が走るような鋭い痛みで、瞬間的に強い痛みが走ります。
この痛みは、食事をする、歯を磨く、顔を洗うといった日常動作で誘発されることがあり、会話をするだけでも痛みが生じる場合があります。そのため、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。
1回の痛みは数秒から数十秒で治まりますが、1日に何度もくり返し発作が起こることがあります。特に頬から顎にかけての痛みが多いため、歯の痛みと勘違いして歯科を受診し、誤って抜歯されるケースもあります。しかし、抜歯をしても痛みは改善しません。
三叉神経は左右にありますが、ほとんどの場合、痛みは片側のみに発生します。
三叉神経痛の主な原因は、三叉神経が圧迫されたり刺激を受けたりすることです。最も多い原因は、脳内の血管が三叉神経に接触・圧迫することだと考えられています。
また、脳腫瘍(髄膜腫、三叉神経鞘腫、類上皮腫など)が三叉神経を圧迫することで発症する場合もあります。
一方で、明らかな圧迫が認められないケースもあります。
三叉神経痛の診断では、痛みの特徴や発生状況(トリガーゾーンの有無など)を詳しく確認します。また、カルバマゼピンなどの薬の内服によって症状が改善するかどうかも、診断の手がかりとなります。MRI検査は必須です。三叉神経に血管が触れていないか、脳腫瘍などの異常がないかを詳しく調べます。
三叉神経痛の最初の治療は、カルバマゼピン(テグレトール)による薬物療法です。多くの患者さんで痛みが治まりますが、吐き気やめまい、電解質異常、薬疹などの副作用が生じる可能性があるため注意が必要です。
カルバマゼピンの内服が困難な場合は、ガバペンチン(ガバペン)やプレガバリン(リリカ)の投与を考慮します。内服治療を続けられない場合は、手術やガンマナイフ治療の実施について患者さんと相談します。
手術は、薬物療法で十分に痛みをコントロールできない場合に検討されます。特に、MRI検査で三叉神経と血管の接触が確認された場合には、有効性の高い治療法となります。
手術では、耳の後ろを切開して頭蓋骨に小さな窓を開け、三叉神経と血管を直接確認して、圧迫している血管を移動させます。手術時間は2~3時間で、入院期間は約10日間です。
手術後は、約90%の患者さんで痛みが消失しますが、合併症として難聴や脳脊髄液漏出などのリスクがあります。当院では、手術の安全性を高めるため、術中神経生理モニタリングを使用しています。
ガンマナイフ治療は、病変に対して高線量の放射線を1回で照射する治療法です。この治療は、組織を破壊するというよりも、ニューロモデュレーション(神経の機能調整)によって痛みが寛解すると考えられています。
実際の治療では、脳槽部の三叉神経に対して、中心線量80~85Gyの放射線を照射します。治療時間は約1時間です。
ガンマナイフ治療は、治療効果が現れるまで2~3か月かかることが多く、約70%の患者さんで痛みが完全寛解します。合併症として、約10%の確率で顔面の知覚障害が発生する可能性があります。
この治療法は、神経血管減圧術(手術)に比べると身体への負担が少ない一方で、有効性では手術に劣ります。
三叉神経痛の治療は、患者さんそれぞれの状態に合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。
三叉神経痛は生命にかかわる病気ではありませんが、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させるものです。そのため、患者さん自身が満足のいく治療目標を設定し、治療法の有効性や副作用を十分に理解した上で治療に臨むことも大切です。
片側顔面痙攣とは、顔の片側の筋肉(特に目や口の周囲)が、自分の意思とは関係なく発作的に攣縮(れんしゅく)をくり返す疾患です。
通常、攣縮は上まぶたから始まり、進行すると口角周辺にも及びます。ストレスや緊張によって症状が悪化することが多く、会話や車の運転などに支障をきたす場合もあります。
一般に中年以降に発症することが多く、特に女性に多く見られるとされています。
主な原因は、顔の筋肉を動かす顔面神経が、脳幹から出る部分で動脈に圧迫されることと考えられています。
そのため、片側顔面痙攣が疑われる場合には、MRI検査によって血管の圧迫の有無を詳しく調べることが推奨されます。
片側顔面痙攣の治療法には、ボトックス治療や外科的治療があります。内服治療を行うこともありますが、十分な効果が得られにくい場合が多いです。
ボトックス治療とは、ボツリヌス菌によって産生される薬剤を注射することで、骨格筋の緊張をやわらげる治療法です。この治療によって、脳卒中後の痙縮(けいしゅく)、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣などの症状の改善をはかります。
個人差はありますが、効果は注射後2~5日で現れ、2~4週間で最大となり、通常3~4か月程度維持します。必要に応じて、外来で再度注射を行います。
この治療は根治的治療ではなく、一時的に症状をやわらげるものになります。
根治的治療として、神経血管減圧術:MVDがあります。
これは、顔面神経を圧迫している血管を移動させることで、神経への異常な刺激を取り除き、痙攣を消失させる手術です。
手術は全身麻酔下で行い、痙攣がみられる側の耳の後ろを切開し、頭蓋骨に500円玉ほどの穴を開け、顕微鏡を用いて圧迫血管を移動させます。
この手術では、95%以上の症例で改善が認められています。高い有効性が期待できる治療ですが、聴力障害や顔面神経麻痺といった合併症リスクもあります。そのため、治療適応については十分な説明と相談が必要です。
症状の消失は手術直後から見られることが多いですが、数ヶ月かかる場合もあります。
また、MRIで明らかな血管の圧迫が確認できない場合は、ボトックス治療を優先することが一般的です。
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